猪肉は、どんな味がするのか。食べたことがない方にとっては、なかなか想像しにくい肉だと思います。「豚肉みたいなもの?」「野生だから硬くてクセが強い?」そんなイメージを持っている方もいるかもしれません。
猪肉はよく「野生の豚」と言われます。わかりやすい説明ですが、実は順番が逆です。
猪が豚になったのではなく、豚が、猪を家畜にしたもの。つまり猪肉は「野生の豚」ではなく、豚肉の「原点」です。
僕は2016年から、猟師仲間から仕入れた猪や鹿を解体し、今は広島でその肉をソーセージにしています。この記事では、猪肉の味の特徴、豚肉との違い、そして猪肉がなぜ「脂が美味しい」と言われるのかを、作り手の立場からお話しします。
猪肉はどんな味?
猪肉のいちばんの特徴は、脂です。
赤身は豚肉より色が濃く、噛むほどに肉の味がしっかり出てきます。そして脂身には、豚肉とはまた違ったコクがあります。猪肉を使った「ぼたん鍋」が冬の味覚として親しまれてきたのも、この脂の旨みがあってこそです。ちなみに「ぼたん鍋」の名前は、薄切りにした猪肉を、牡丹の花のように盛りつけることに由来すると言われています。
一方で、野生の肉なので、一頭ごとに味わいは違います。獲れた季節、その猪が何を食べていたか、どれくらい山を動き回っていたか。同じ「猪肉」でも、脂ののり方や香りに幅があるのは、家畜の肉とは違うところです。
猪肉と豚肉の違いを、数字で比べる
では、猪肉と豚肉は、中身がどう違うのか。文部科学省の「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」で、猪肉(脂身つき)と豚ロース(脂身つき)を比べてみました。
| 生100gあたり | 猪肉(脂身つき) | 豚ロース(脂身つき) |
|---|---|---|
| エネルギー | 249kcal | 248kcal |
| たんぱく質 | 18.8g | 19.3g |
| 脂質 | 19.8g | 19.2g |
| 鉄 | 2.5mg | 0.3mg |
| 亜鉛 | 3.2mg | 1.6mg |
| ビタミンB12 | 1.7μg | 0.3μg |
| ビタミンB1 | 0.24mg | 0.69mg |
出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
カロリー・たんぱく質・脂質は、ほぼ同じ
まず目を引くのは、エネルギー、たんぱく質、脂質がほとんど同じだということです。エネルギーは249kcalと248kcal、脂質は19.8gと19.2g。「野生の肉だから脂が少ない」わけでも、「猪だから特別に脂っこい」わけでもありません。脂の量でいえば、猪肉と豚ロースは同じくらいです。
違いが出るのは、赤身の中身
大きく違うのは、鉄・亜鉛・ビタミンB12です。鉄は猪肉が2.5mgで、豚ロースの0.3mgの約8倍。亜鉛は約2倍、ビタミンB12は5倍以上あります。猪肉の赤身の色が豚肉より濃いのも、鉄を含むたんぱく質が多いことと関係しています。
ビタミンB1は、豚肉のほうが上
もちろん、猪肉が全部の項目で勝っているわけではありません。ビタミンB1は、豚ロースが0.69mg、猪肉が0.24mgで、豚肉のほうが3倍近く多く含んでいます。豚肉がビタミンB1の多い肉としてよく知られているのは、この数字の通りです。
猪肉の脂が「美味しい」と言われる理由
数字で見ると、脂の量は豚肉とほとんど変わりません。それなのに、猪肉は「脂が美味しい」と言われます。
正直に言うと、この理由を成分表の数字だけで説明しきることはできません。脂の「量」は数字にできても、脂の「味」は、なかなか数字にならないからです。
そのうえで、よく挙げられるのが次のような理由です。
季節によって脂ののり方が変わる
猪は、秋から冬にかけて、寒い季節に備えて脂を蓄えるとされています。ぼたん鍋が冬の料理として親しまれてきたのも、この時期の猪肉に脂がのっているからだと言われます。
山で食べてきたものが、脂の風味になる
家畜の豚は、決まった飼料で育てられます。野生の猪は、どんぐりなどの木の実や植物の根など、山にあるものを食べて育ちます。何を食べてきたかが、脂の風味の個性につながると考えられています。
山を動き回ってきた肉
野生の猪は、山を歩き回って暮らしています。そのぶん、赤身には噛みごたえと、しっかりとした肉の味があると言われます。脂の甘みと赤身の力強さ、その組み合わせが、猪肉ならではの美味しさを作っています。
つまり猪肉の美味しさは、脂の量ではなく、脂と赤身の「中身」で決まる。数字で比べてみて、あらためてそう思います。
猪肉の脂の旨み、ソーセージで味わってみませんか?
広島産のジビエ肉を、肉のカットから腸詰めまで工房で仕上げ、添加物を使わずに作っています。冷凍パックのまま湯煎するだけで食べられます。
ソーセージを見る猪肉を食べる前に知っておきたいこと
臭みは、処理で決まる
「猪肉はクセが強い」と感じた経験がある方もいるかもしれません。ジビエの臭みの多くは、獲ってからの血抜きや冷却、解体といった処理の段階で決まります。きちんと処理された猪肉は、驚くほど食べやすい肉です。
必ず中までしっかり加熱する
猪肉は、生や半生では食べず、中心までしっかり火を通してください。野生の猪や鹿の肉には、E型肝炎ウイルスや寄生虫がいる可能性があるため、厚生労働省も十分な加熱を呼びかけています。加熱の目安は、中心部の温度が75℃で1分間以上、またはこれと同等以上です。
脂を活かす料理が向いている
猪肉は、脂の旨みを活かす料理と相性がいい肉です。薄切りにして鍋にしたり、じっくり煮込んだり。脂が溶け出したスープごと楽しむと、猪肉の良さがよくわかります。
僕たちと猪肉
僕たちと猪肉の付き合いは、ドットコミュを始めた2016年からです。猟師仲間から仕入れた猪を解体・精肉するところから始まりました。
実は同じ年、イベントに出店するときに、最初は猪肉のケバブを出そうとしていました。……結果は、断念。ホットドッグに切り替えています。美味しい肉があることと、それをどう届けるかは、別の話です。
今、僕たちのソーセージの「プレーン」は、猪肉で作っています。過去には、猪のコンソメを使った「潮吹きソーセージ」という商品も作りました。猪の脂の旨みを、どうやったらいちばん美味しく届けられるか。その試行錯誤は、今も続いています。
猪肉は、豚肉の「原点」を味わう肉
猪肉は、カロリーや脂の量こそ豚ロースとほとんど同じですが、鉄は約8倍、亜鉛は約2倍、ビタミンB12は5倍以上。赤身の中身が濃く、脂には季節や山の暮らしが映る肉です。一方で、ビタミンB1は豚肉のほうが多いなど、それぞれに良さがあります。
「野生の豚」ではなく、豚肉の「原点」。そう思って食べてみると、猪肉の味わいが、少し違って感じられるはずです。まずは、しっかり処理された猪肉を、脂ごと味わってみてください。
- 猪肉はどんな味ですか?
- 赤身は豚肉より色が濃く、噛むほどに肉の味がしっかり出ます。脂身にはコクがあり、猪肉を使ったぼたん鍋は冬の味覚として親しまれています。野生の肉のため、獲れた季節や個体によって味わいに幅があります。
- 猪肉と豚肉の違いは何ですか?
- 「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」で生100gあたりを比べると、猪肉(脂身つき)と豚ロース(脂身つき)は、エネルギーや脂質はほぼ同じです。一方で、鉄は猪肉が2.5mg、豚ロースが0.3mgと大きく違います。ビタミンB1は豚ロースのほうが多く含まれています。
- 猪肉は脂っこいですか?
- 脂身つきの猪肉の脂質は生100gあたり19.8gで、豚ロース(脂身つき)の19.2gとほぼ同じです。脂の量が特別に多いわけではありませんが、脂のコクが猪肉の特徴です。
- 猪肉は生で食べられますか?
- 生や半生では食べず、中心までしっかり加熱してください。加熱の目安は、中心部の温度が75℃で1分間以上、またはこれと同等以上です。















