鹿肉や猪肉をいただいた。あるいは、せっかくだからと買ってみた。けれど、いざ台所に立つと手が止まる。臭みを抜くために牛乳に漬けるべきなのか、どれくらい焼けばいいのか。ジビエを初めて料理するときは、わからないことが多いと思います。
結論から言うと、ジビエの下処理は、肉によって要るものと要らないものがあります。そしてその差は、台所に届く前にほとんど決まっています。
僕は2016年から広島で鹿や猪の肉を扱ってきました。この記事では、下処理の考え方から、鹿肉と猪肉それぞれの調理のコツ、部位ごとに向く料理まで、順番にお話しします。
下処理が要るかどうかは、届く前に決まっている

ジビエの臭みやクセの多くは、獲ってからの血抜き、冷却、解体といった処理の段階で決まります。きちんと処理された鹿肉や猪肉は、牛や豚と同じように、そのまま料理しても驚くほどクセがありません。
反対に、処理に時間がかかった肉や、血がうまく抜けていない肉は、台所でどれだけ手をかけても、臭みを消しきるのは難しくなります。牛乳や酒に漬ける、香味野菜と一緒に下ゆでする、といった方法は、そうした肉を食べやすくするための工夫です。
つまり、ジビエを料理するときにいちばん効く「下処理」は、処理のしっかりした肉を選ぶことです。買うときは、どこで、どんなふうに処理された肉なのかがわかるものを選ぶと安心です。
届いた肉にしておきたい、3つの下ごしらえ

処理のしっかりした肉でも、料理の前にしておくと仕上がりが変わる下ごしらえがあります。どれも難しいものではありません。
1. 冷蔵庫でゆっくり解凍する
ジビエは冷凍で届くことが多い肉です。急いで常温や電子レンジで解凍すると、肉の水分(ドリップ)がたくさん出て、パサつきの原因になります。前の日から冷蔵庫に移して、時間をかけて解凍するのがおすすめです。
2. 出てきた水分を拭き取る
解凍したときに出てきた水分は、キッチンペーパーでしっかり拭き取ります。ドリップが残ったまま焼くと、焼き色がつきにくく、においも残りやすくなります。
3. 筋や膜、血の塊を取る
表面の白い筋や膜、ところどころに残った血の塊は、包丁で取り除きます。とくに鹿肉の筋は、火を通すと縮んで硬くなるので、ひと手間かけるだけで食感がやわらかくなります。
鹿肉は、焼きすぎずに中まで火を通す

鹿肉は脂の少ない赤身の肉です。脂が少ないぶん、強い火で長く焼き続けると、水分が抜けて硬くなりやすいのが特徴です。
焼くときは、表面に焼き色をつけたら火を弱め、蓋をしたりアルミホイルで包んだりして、じんわりと中まで火を通すのがコツです。薄切りなら、さっと炒めて火が通ったらすぐに火から下ろします。
ただし、ジビエは生や半生では食べず、中心までしっかり加熱するのが基本です。厚生労働省は、中心部の温度が75℃で1分間以上、またはこれと同等以上の加熱を目安として示しています。塊肉を焼くときは、料理用の温度計があると安心です。
「焼きすぎない」と「中まで火を通す」は、一見すると矛盾しているようですが、強い火で一気に焼かず、やさしい火で時間をかけることで両立できます。
猪肉は、脂を活かしてじっくり

猪肉は、鹿肉とは反対に、脂のしっかりのった肉です。この脂に甘みとコクがあるので、脂を落としすぎず、活かす料理が向いています。
昔から親しまれてきた「ぼたん鍋」のように、薄切りを鍋で煮るのは定番の食べ方です。塊肉なら、角煮やカレーのように時間をかけて煮込むと、赤身がほぐれるようにやわらかくなり、脂の旨みがスープに溶け出します。猪肉の味の特徴は、猪肉の味と豚肉との違いをまとめた記事でくわしく紹介しています。
部位ごとに向く料理を、鹿肉と猪肉でまとめると次のようになります。
| 肉 | 部位 | 向く料理 |
|---|---|---|
| 鹿肉 | ロース・ヒレ | ステーキ、ロースト(弱めの火でじっくり) |
| 鹿肉 | もも | 焼肉、炒め物、カツ、ロースト |
| 鹿肉 | すね・肩・端材 | 煮込み、カレー、ひき肉料理 |
| 猪肉 | ロース・肩ロース | ぼたん鍋、しゃぶしゃぶ、生姜焼き |
| 猪肉 | ばら | 角煮、煮込み、焼肉 |
| 猪肉 | もも・すね | 煮込み、カレー、ひき肉料理 |
どちらの肉も、硬い部位ほど煮込みやひき肉料理に向いています。反対に、ロースやヒレのようなやわらかい部位は、焼いて肉そのものの味を楽しむのがおすすめです。
下処理なしで、ジビエを味わってみませんか?
広島で獲れた鹿や猪を、仕込みから腸詰めまで自分たちの手でソーセージにしています。冷凍パックのまま湯煎して、焼き色をつけるだけで食べられます。
ソーセージを見る下処理のいらないジビエもある

創業したばかりの頃、僕たちは鹿や猪の生肉を売っていました。そのとき、本当によく聞かれたのが「どうやって食べるの?」という質問です。美味しい肉なのに、料理の方法がわからなくて手に取ってもらえない。それが、僕がソーセージを作り始めたきっかけのひとつでした。
ソーセージは、下処理も味つけも、作り手の側で済ませてある肉です。僕たちのソーセージに使う猪や鹿は、広島県東広島で獲れたもの。狩猟をしていた頃からの仲間の猟師さんが、罠猟で捕獲したあと確実にナイフで血抜きを行い、速やかに衛生的な施設で処理しています。その肉を、挽いて、スパイスやハーブと合わせて、腸詰めしています。
家での調理は、冷凍・真空パックのまま、沸騰直前のお湯(目安90〜95℃)で13分ほど湯煎するだけ。ぐつぐつ沸騰させないのがポイントです。袋から出して、フライパンで軽く焼き色をつければ完成です。
生の肉から料理するのは少しハードルが高い、という方は、まずソーセージでジビエの味を知ってから、生肉に挑戦してみるのもいいと思います。
ジビエ料理は、肉選びから始まっている

ジビエの下処理は、肉が台所に届く前にほとんど決まっています。処理のしっかりした肉なら、解凍と水気の拭き取り、筋取りくらいで十分です。鹿肉は焼きすぎずに中まで火を通し、猪肉は脂を活かしてじっくり。どちらも、中心までしっかり加熱することだけは忘れないでください。
特別な技術がなくても、ジビエは美味しく食べられます。いつもの豚肉や牛肉の代わりに、気軽に使ってみてください。
- ジビエは牛乳に漬けないと臭いですか?
- 臭みの多くは、獲ってからの血抜きや冷却、解体など処理の段階で決まります。きちんと処理された肉であれば、牛乳に漬けなくても、そのまま美味しく料理できます。
- 鹿肉を硬くしない焼き方はありますか?
- 鹿肉は脂が少ないため、強い火で焼き続けると硬くなりやすい肉です。表面に焼き色をつけたら火を弱め、蓋やアルミホイルを使ってじっくり中まで火を通すのがおすすめです。
- ジビエはどれくらい加熱すればいいですか?
- 厚生労働省は、中心部の温度が75℃で1分間以上、またはこれと同等以上の加熱を目安として示しています。生や半生では食べないでください。
- 冷凍のジビエはどうやって解凍すればいいですか?
- 前日から冷蔵庫に移して、ゆっくり解凍するのがおすすめです。解凍時に出た水分は、キッチンペーパーで拭き取ってから調理してください。











