ニュースで「鹿が増えすぎている」「駆除が追いつかない」と聞くことがあります。畑の作物が食べられたり、車とぶつかったり。そんな話を聞くたびに、気になることがひとつ出てきます。獲られた鹿は、そのあとどこへ行くのだろう、ということです。
この記事では、鹿や猪がどれくらいいて、どれくらい獲られていて、そのうちどれくらいが食べものになっているのかを、国の数字で見ていきます。
僕は2013年に狩猟を始め、2016年から広島で鹿や猪の肉を扱う仕事をしています。獲った命をどう活かすかは、僕にとって仕事の出発点そのものです。
鹿は本当に増えすぎているのか

環境省の推定では、令和4年度末の時点で、本州以南のニホンジカは約246万頭(中央値)、イノシシは約78万頭(中央値)とされています。
国は、ニホンジカとイノシシの数を半分に減らすことを目標にしてきました。当初は令和5年度までの目標でしたが、ニホンジカの数はまだ高い水準にあるため、期限は令和10年度まで延長されています。
鹿が増えると、畑の作物や植林した若い木が食べられるだけでなく、森の下草がなくなって土が流れやすくなるなど、山そのものにも影響が出ます。「かわいそうだから獲らないでほしい」という気持ちも、「畑を守りたい」という気持ちも、どちらも自然なものです。そのうえで、今の日本では、数を減らすための捕獲が各地で続けられています。
1年で、鹿は70万頭以上獲られている

環境省の速報値によると、令和6年度に捕獲されたニホンジカは73万8,700頭、イノシシは64万3,000頭。合わせて138万頭を超えます。
このうち、趣味やスポーツとしての「狩猟」による捕獲は、鹿で13万3,800頭。残りの60万4,900頭は、農作物の被害を防ぐためなどに自治体の許可を受けて行う捕獲です。つまり、獲られている鹿の8割ほどは、「被害を減らすため」に獲られていることになります。
農林水産省によると、令和6年度の野生鳥獣による農作物の被害額は188億円。そのうち鹿によるものが79億円、猪によるものが45億円でした。数字の向こうには、手をかけて育てた作物を食べられてしまった農家さんがいます。
獲られた鹿のうち、食肉になるのは一部

では、獲られた鹿はどうなるのか。食肉処理施設で解体されてジビエとして流通するものもありますが、その数は多くありません。国の数字を並べてみます。
| 項目 | ニホンジカ | イノシシ |
|---|---|---|
| 推定個体数(令和4年度末・中央値) | 約246万頭(本州以南) | 約78万頭 |
| 捕獲頭数(令和6年度・速報値) | 73万8,700頭 | 64万3,000頭 |
| 食肉処理施設での解体頭数(令和6年度) | 12万7,513頭 | 4万247頭 |
| 解体頭数÷捕獲頭数(目安) | 約17% | 約6% |
調査の種類が違うので正確な割合ではありませんが、目安として計算すると、食肉処理施設で解体されるのは、鹿で捕獲頭数の2割弱、猪では1割に届きません。農林水産省も、令和3年度について「捕獲されたシカ・イノシシのうち、ジビエとして処理されたのは約1割」と説明しています。
残りの多くは、山の中や決められた場所に埋められたり、焼却されたりしています。獲った人やその周りの人が、自分たちで食べることもあります。
ジビエにならない理由は、時間と距離

獲った鹿がすべて食べものにならないのは、「食べられない肉だから」ではありません。多くの場合、食肉にするための条件がそろわないからです。
肉の質は、獲ってからの数時間で決まる
野生の動物の肉は、獲ったあとにすぐ血を抜き、体を冷やし、衛生的な施設で解体することで、はじめて美味しく安全な食肉になります。この処理が遅れると、臭みが出たり、傷みやすくなったりします。
ところが、鹿が獲れるのは山の中です。重い体を運び出すだけでも大仕事ですし、食肉処理施設までの距離が遠ければ、間に合わないこともあります。撃った場所や個体の状態によっては、食肉に向かないこともあります。
受け皿になる施設や、買い手の問題も
処理施設が近くにあっても、一度に処理できる数には限りがあります。そして、処理した肉を買ってくれる人がいなければ、施設を続けることはできません。ジビエを「食べる人」がいることは、獲った命を活かす仕組みを支えることにもつながっています。
僕がソーセージを作っている理由

僕がこの仕事を始めたきっかけは、初めて自分で獲った鹿を捌いて食べたときのことです。思わず「めちゃくちゃうまい…!」と声が出ました。そして同時に、「この肉が、駆除されて捨てられているなんて」と思いました。
2016年にドットコミュを立ち上げたとき、最初は猟師仲間から仕入れた鹿や猪を解体・精肉して、飲食店に卸していました。けれど野生の肉は、いつ、どれだけ入ってくるか見込みが立ちません。活かしたくて仕入れたはずの肉を、売り切れずに廃棄してしまうこともありました。
そこで気づいたのが、ソーセージなら、どんな部位でも、どんな端材でも活かせるということです。部位の縛りもなく、味つけも形も自由。そして何より、ロスを出さずに済みます。
今も僕たちのソーセージに使う猪や鹿は、広島県東広島で獲れたものです。僕がまだ狩猟をしていた頃からの仲間の猟師さんから仕入れていて、罠猟で捕獲したあと、確実にナイフで血抜きを行い、速やかに衛生的な施設に運び込んで処理しています。
食べることも、ひとつの関わり方

鹿は増えていて、毎年たくさん獲られています。そのうち食べものとして活かされているのは、まだ一部です。獲る人、処理する人、料理する人、そして食べる人。その流れがつながったところで、はじめて命は食卓に届きます。
山や畑の問題を、ひとりで解決することはできません。けれど、ジビエを美味しく食べることは、誰にでもできる関わり方のひとつだと思います。難しく考えずに、まずは一口、試してみてください。
- 日本の鹿は何頭くらいいるのですか?
- 環境省の推定では、令和4年度末の本州以南のニホンジカは約246万頭(中央値)です。イノシシは約78万頭(中央値)と推定されています。
- 鹿は1年に何頭くらい捕獲されていますか?
- 環境省の速報値では、令和6年度に捕獲されたニホンジカは73万8,700頭、イノシシは64万3,000頭でした。鹿の捕獲のうち約8割は、被害防止などのために自治体の許可を受けて行う捕獲です。
- 駆除された鹿は食べられるのですか?
- 食肉処理施設で適切に処理された鹿は、ジビエとして食べられます。ただし、獲ってから速やかに血抜き・冷却・解体する必要があるため、施設まで運べないなどの理由で、食肉になるのは捕獲された鹿の一部にとどまっています。
- ジビエとして利用される鹿はどれくらいですか?
- 令和6年度に食肉処理施設で解体された鹿は12万7,513頭でした。同じ年度の捕獲頭数(速報値)と比べると、目安として2割弱です。











