僕はジビエの商売で、肉を何度も捨てました。
せっかく獲ってもらった鹿や猪の肉を、売り切れずに冷凍庫で腐らせて、ゴミ袋に入れる。一度や二度ではありません。
はじめまして、と言うには遅いかもしれませんが、広島でソーセージを作っている中山です。2013年に狩猟を始め、2016年に鹿の枝肉を仕入れて解体・精肉し、飲食店に卸すところから商売を始めました。そこから10年。お店を出しては閉め、工場を建てようとしてはやめ、催事で自信作を出してはコケてきました。
なので最初に白状しておきます。ジビエの商売で成功する方法は、僕にはわかりません。知っていたら、もっと楽に10年やれていました。ただ、ジビエの商売でつまずく方法については、あまり詳しくなりたくなかったのですが、かなり詳しくなってしまいました。この記事は、そういう文章です。

成功はアート、失敗はサイエンス。失敗の型なら、再現性があるので人に渡せるんですよね。
ジビエの商売は、肉の質ではなく「出口」で死ぬ

ジビエで商売を始める人が最初に心配するのは、たいてい肉の質です。
はっきり言います。そこはあまり心配しなくていい。信頼できる仕入れ先さえ見つかれば、肉はちゃんとおいしい。問題はその先です。
ふつうの食材の商売は、売れる量を見込んで、仕入れる量を決めます。ジビエは逆です。肉は、山で獲れたときに、獲れた分だけ入ってきます。いつ、何頭、どのくらいの大きさか。こちらは何ひとつ選べません。
創業したころの僕は、「今日たくさん獲れたで」と連絡が来るたびに、東広島の豊栄まで飛んでいきました。朝5時半に家を出て、片道1時間半。往復で3時間。これが平均して週3日です。つまり、肉を取りに行くだけで、毎週9時間を道路の上で過ごしていました。
そして、獲れた分は意地で全部仕入れました。せっかくの命ですから。
これが間違いでした。卸していくと、売れる部位と売れ残る部位がはっきり分かれます。売れ残った部位と端材が冷凍庫にたまり、最後は捨てる。仕入れ代を払い、運ぶ時間を払い、捨てる手間を払う。三回払って、何も残らない。
名前をつけるなら、「出口のない仕入れ」です。ジビエの商売は、肉の質で死ぬのではありません。出口のない仕入れで死にます。
僕たちがたどり着いた出口は、どんな部位も端材も使いきれるソーセージでした。ソーセージなら、部位の縛りもない。形も、味付けも、組み合わせも自由にできる。何より、ロスを出さない。命を活かしきる武器を、ようやく手に入れたわけです。
- ジビエは「売れる量」ではなく「獲れた量」で入ってくる
- 出口のない仕入れは、仕入れ代・時間・処分の三重払いになる
- 仕入れる前に、入ってくる肉の全部に行き先を用意する
ジビエの商売でつまずく、5つの典型パターン

成功のパターンは人それぞれです。でも、失敗のパターンは驚くほど似ています。僕が踏んだ地雷を、踏んだ順に並べます。全部踏んでいます。
1. 意地の全量仕入れ
先ほどの話です。獲れた分を全部仕入れるのは、やめてください。気持ちはわかります。僕もそうでした。でも、出口が決まっていない肉は、在庫ではなく、時限式の廃棄物です。仕入れていい量は、出口の数で決まります。
2. 肉だけを売って、食べ方を売らない
生肉を売っていたころ、いちばん聞かれたのは「これ、どうやって食べるの?」でした。おいしい肉でも、料理の仕方がわからなければ買ってもらえません。当たり前です。でも当時の僕は、肉が良ければ売れると思っていました。
転機は、イベントの会場で声をかけてもらった広島三越のデパ地下の催事です。家庭向けの惣菜を作り始め、2017年、湯煎して焼くだけの冷凍の生ソーセージにたどり着きました。肉を売るのをやめて、食べ方ごと売る。そこからです、一般のご家庭に届き始めたのは。
3. 自信作の罠
2023年の夏、名古屋の百貨店の催事に、手の込んだビーフのホットドッグを持っていきました。自信作です。苦戦しました。その前には、新宿の百貨店で真っ黒なホットドッグを出してコケています。これも自信作でした。
自信作ほど、初めてのお客さんには遠い。味が想像できないからです。お店ではこだわり8に定番2でいい。催事ではそれを逆にする。これを理解するのに、僕は百貨店を2回使いました。高い授業料です。
4. 相手の見込み数字で、大きく張る
2023年の秋、福岡の大きな肉のイベントに3日間出ました。行楽シーズンの三連休にお店を閉め、ほかの出店のお誘いも断って、福岡まで行って、赤字です。どんな修行をしているんだ、と自分でも思いました。
初めてやりとりする主催者さんの見込み数字は、信じないでください。悪気がないのはわかっています。でも、その数字であなたの三連休の売上を賭けるのは、あなたです。見込みどおりに人が来なかったらどうなるか。それを、出店を決める前に考えておく。僕はそれを、赤字で買いました。
5. 作る力ばかり鍛えて、届ける力を放置する
2024年、製造を強くするための工場移転を計画していたころ、テレビ番組の「令和の虎」で言われました。「そんだけ作って、売れるの?」
こっちは熱を持って夢を語っているのに、と思いました。でも、正しいのは向こうでした。作ったものに触れてもらう場所も、届ける道筋もないまま製造だけ増やしても、増えるのは在庫です。出口のない仕入れの、規模が大きいバージョンをやろうとしていたわけです。
| 典型パターン | 起きること | 僕たちが変えたこと |
|---|---|---|
| 意地の全量仕入れ | 売れ残った部位と端材を捨てる | 端材まで使えるソーセージを作った |
| 肉だけを売る | 「どうやって食べるの?」で止まる | 湯煎して焼くだけの冷凍生ソーセージにした |
| 自信作の罠 | 初めてのお客さんが味を想像できない | 催事では定番を厚くし、ひと言で伝える |
| 見込み数字で大きく張る | 遠征や出店で赤字になる | 主催者の見込みをそのまま信じない |
| 届ける力を放置する | 作っても在庫が増えるだけ | 製造の拡張より先に、お店を開いた |

並べてみると、全部「やりすぎ」なんですよね。こだわりも、仕入れも、投資も。ちょうどいいところを毎回通り過ぎています。
ジビエのソーセージ、お店のメニューで試してみませんか?
猪と鹿のソーセージ4種に、ホットドッグ用の豚肉ソーセージを合わせた、飲食店・小売店の方向けのサンプルセットです。冷凍のまま湯煎して焼くだけで出せます。
卸売サンプルセットを見る撤退の線は、うまくいっているうちに引く。苦しくなってからでは引けない

商売では、粘ることが美徳として語られます。
でも、断言します。粘るより先に、引く線を決めておくほうが、経営としてはずっと大事です。苦しくなってから引く線を探しても、まず見つかりません。苦しいときの頭は、「ここまでやったのだから」としか言わないからです。
2020年12月、僕たちは福岡に2号店を出しました。初めての県外です。そして広島から手が回らず、2022年3月からは通常の営業ができなくなりました。それでも無人の店として1年あまり残しています。いつか再開するつもりで、です。閉めたのは2023年6月でした。
この1年あまりに何の意味があったか。正直、引く線を先に決めていれば、もっと早く閉められたと思います。
その反省が生きたのが、次の三原への工場移転です。当初の概算は5,000万円。金融機関には大きすぎると言われ、設備を絞って練り直し、ものづくり補助金にも採択されました。ここまで来ると、もう止まれない空気になります。
けれど補助金には、設備の設置と完了報告の期限がありました。2024年の夏、残りの期間と予算を並べたら、トラブルがひとつでも起きればアウトです。そして僕は思い出しました。これまで、計画どおりに物事が進んだことなんて、一度でもあったか。ない。2024年8月、計画を中止しました。
僕の気持ちは「まだいける」と言っていました。でも日付は揺れません。自分の外にある線から逆算できたから、止まれた。名前をつけるなら「外側の線」です。
- 苦しくなってから引く線を探しても、見つからない
- 期限・予算の上限・資金が尽きる月など、自分の外にある線を先に書く
- 気持ちではなく、その線から逆算して止まる

やめると決めた日、車を降りてしばらく月を眺めていました。泥じゃなくて、星のほうを見ようと思って。
4,000万円を1回張るより、400万円を10回張る

移転をやめて、僕が考えたのはこれです。
一度でも4,000万円の投資を腹に括る気持ちがあったのなら、400万円の挑戦を10回したほうがいい。
1回で4,000万円を張ると、外れたら終わりです。10回に分ければ、9回外れても1回当たればいい。外れた回からも、学んで持って帰れます。何がいつ伸びるかなんて、やってみるまで誰にもわかりません。わからないなら、打席に立つ回数を増やすしかない。
実際にやったことを数字で書きます。鹿肉のジャーキーは、大きな設備を入れる代わりに、製造を外部の工場にお願いし、僕たちは2025年1月に「食品の小分け業」の許可を取りました。かかったのは、保健所への申請料17,000円と、蛇口の取っ手の付け替え。許可まわりにかかったお金は2万円ほど。4,000万円の計画でやろうとしていたことの一部が、そこから始まりました。
2026年2月に工房の隣で始めた「ドットコミュ BURGER & HOTDOGS」も、同じ発想です。製造を増やす前に、目の前で焼いて、手渡して、話せる場所を作る。イベントで鍛えてきたホットドッグで回す考え方を、毎日のお店に持ち込みました。
いまの僕たちの商売は、卸、通販、お店の3本です。肉のカットから腸詰めまでを広島の工房で行い、これまでに40種類以上のソーセージを作ってきました。いまは飲食店への卸が中心で、2024年の春以降は製造量が前の年の約1.4倍のペースになりました。派手さはありません。でも、入ってきた肉を使いきって、出口まで届ける足場は、10年かけてようやく固まりました。業務用の仕入れについては、業務用ソーセージの仕入れの記事に書いています。
- 大きく1回より、小さく何度も
- 許可や委託を組み合わせれば、設備がなくても始められる
- 外れた回からも、経験は持って帰れる
遠回りした分だけ、話せることがある

ジビエの商売は、肉の質ではなく出口で決まります。
出口のない仕入れをしない。肉ではなく食べ方を売る。初めてのお客さんには、こだわりより定番を。他人の見込み数字で大きく張らない。引く線は、うまくいっているうちに、自分の外に引いておく。
全部、僕が転んで覚えたことです。転んだ回数なら、ちょっと自慢できるくらいあります。でも、転んでもタダでは起きないと決めてやってきたので、いまは地に足をつけて、毎日ソーセージを作っています。
これからジビエの商売を始める方。いま続けている方。同じところで転ばなくていいように、この文章を置いておきます。転んだら転んだで、何かを拾って起き上がりましょう。

- ジビエで商売を始めるには、何が必要ですか?
- 獲った鹿や猪の肉を販売するには、保健所の営業許可を受けた施設で処理する必要があります。必要な許可の種類や施設の基準は、事業の内容によって変わるため、まずは開業予定地の保健所に相談してください。そのうえで、仕入れ先と、入ってきた肉を売り切る出口を先に決めておくことをおすすめします。
- ジビエの商売でいちばん大変なことは何ですか?
- 仕入れの量とタイミングを選べないことです。野生の肉は獲れたときに入ってくるため、使いやすい部位だけでなく、売り切りにくい部位や端材も含めて、すべてに行き先を用意しておく必要があります。
- ジビエの端材は、どう活かせますか?
- ソーセージのような加工品にすれば、部位を問わず使いきれます。ドットコミュも、端材を活かしてロスを出さないために、創業の翌年から冷凍の生ソーセージを作り始めました。
- 小さく始めるには、どうすればいいですか?
- 大きな設備を一度に入れるより、外部の工場への製造委託や、小さな許可の組み合わせで試す方法があります。ドットコミュでは、製造を外部に委託し、食品の小分け業の許可を取ることで、鹿肉のジャーキーを小さく始めました。
- ジビエのソーセージを、お店で仕入れることはできますか?
- できます。飲食店・小売店の方向けに、猪・鹿・豚のソーセージ5点の卸売サンプルセットをご用意しています。卸売やオリジナル商品のご相談は、卸売・OEMのページのフォームからどうぞ。





















